続・もらとりあむ党

アラサーOLのいろいろ。デザイン、旅、、エトセトラ。

研究計画

研究室のブログを更新しました。
テーマは今年の研究計画。

去年の夏に院試のために提出していた研究計画書をもとにして、
今回時間をとってじっくり書いたので、
記録としてこっちにも載せておこうと思います。




研究室のHPはコチラ
ylablog:【今年の研究計画】オーラル・ヒストリーの構築体験を通した価値観の変容

―――
【研究テーマ】

オーラル・ヒストリーの構築体験を通した価値観の変容

【研究の背景】

■歴史教育の現状と問題
みなさんは、中高生の頃どのような歴史の授業を受けましたか?

テスト前に必死に教科書を暗記したり、
先生の呪文のような講義についうとうとしたり...
なんてことはなかったでしょうか?

そのはず、現状の歴史教育の問題点として、
教師の一方的な講義や教科書の無批判な理解(加藤1996)があげられます。

一方、歴史を理解する上で、生徒の生活世界での経験に基づいて歴史のイメージ形成がなされるにもかかわらず、現状では、日常と切り離された抽象的言語レベルで歴史知識を学んでいるため、表面的な理解に陥りやすくなっています(宮崎1995)。

上記の問題を解決するためにこれまでたくさんの新しい歴史学習の方法が検討されてきました。
例えば、教科書の補助資料としての図説や文字史料や、
山内先生の開発されたウェアラブルコンピュータでの歴史学習(中杉ら2002)もその一つです。


しかし、それでもなお解決できない点もあります。
それは史資料から得た情報から当時の人々の考えや心情を知ること、
教科書の記述に対して実際にはどうだったのかという細かい視点で見ること、
自分のもった疑問に対して深く掘り下げることができません。
また、名もなき一般市民の記録は文字史料として残っていることは少なく、
戦争時の史資料など戦禍に巻き込まれて物理的に残せなかったものもあります。
 

以上から、現存の史資料を使った歴史学習は、歴史の抽象的な全体像が見えても、
日常知に結び付けて歴史をイメージすることが難しい
のが現状です。


【研究目的】

■歴史に「声」を取り入れるオーラル・ヒストリー
 史資料のみを用いた学習ではなく、具体的なイメージ形成からより深い歴史の理解を促す「オーラル・ヒストリー」を用いた歴史学習方法をデザインします。そして、深い歴史の理解を通して、学習者の歴史観・人生観といった価値観の変容する過程をはかります。


【研究方法】

■オーラル・ヒストリーとは?
日本では第一人者の御厨(2002)が、公人の専門家による万人のための口述記録と定義しています。
しかし、2005年には、近年オーラル・ヒストリーが急速に市民権を得たことから、
公的体験を有する人のみならず、いわゆる庶民や名もなき人にまで改めて対象とする人々の背景を広げてよいと述べています(御厨2005)。

また清水(2003)は、ある個人にその体験を口述してもらい、これを記録、分析する一連の作業を総称したものと定義しています。要するに、人の声(個々の人生や体験した出来事の語り)を取り入れることによって歴史を再構成していくプロセスです。

■ストーリーから学ぶ、対話から学ぶ
オーラル・ヒストリーを用いて学習すると、
一般的な授業では得がたい「ストーリーによる学び」が可能になります(中川2009)。
先行研究でも、聞き手である学生はインタビュアーの個々のストーリー、
人生哲学を学び、高齢者に対する固定観念が外れ、変容的学習が行われています(中川2009)。
 
一方、広島長崎、沖縄などの修学旅行のプログラムにある
語り部の体験談の語りはこれまでも教育の一環として活用されていました。
そのほとんどがインタビューというよりむしろ講演、講義といった体験者による
一方向的な語りが中心になっています。
しかしながら、桜井(2005)は語り手の人生を解釈するのは、
聞き手の「自己」の人生であり、オーラル・ヒストリーを用いて有効的に学習するには、
聞き手と語り手の相互作用をもって語られることが必要と述べています。
そのためにも「語り手と聞き手の相互行為」としてインタビューを行い、
対話的構築を行うことが重要
になります。


【今後に向けて】

 今年一年間はとにかくたくさんの文献にあたって広く深く掘り下げる一年にしたいと思っています。欧米ではオーラル・ヒストリー・プロジェクトと表される歴史学習が盛んに行われているので、毛嫌いしていた英語文献のレビューにも励みたいです。また、オーラル・ヒストリーに関連する概念に、ストーリーテリング、ライフ・ストーリー、ライフ・ヒストリー、ナラティブ・アプローチなどがあります。これらは様々な学問領域で発達しましたが、うまく整理しつつ、多方面からこの研究を捉えていきたいと思います。